変質者にワゴン車に乗せられかけたこと
一週間前の記事 で書いた、変質者に追いかけられてワゴン車に乗せられかけた話。
おいらが二十歳、大学を休学し深夜遅くまでバイトしまくって実家の生活費を稼いでた頃。
深夜1時半頃だったと思う。
バイトを終えてくたくたになりながら自転車でいつもの帰路を通って、十字路を曲がった時ふと視界に不自然なカーブを描くワゴン車が目の端に入った。
妙な気持ち悪さを感じて、やや早めに自転車をこいでいたんだけどあっというまに追い抜かれて、おいらの3m先くらいでグレーのワゴン車が停車した。
中から普通っぽい30代くらいの作業服のようなものを着た男の人が降りてきて、サッとおいらの自転車の前へ飛び出てきた。
その男は走っているおいらの自転車を正面からガシっと両手で掴んで、自転車が止まったのを確認するとおいらの横へまわった。
「……ちょっといい?」
咄嗟のことであっけにとられたおいらは何もできなかった。
男はおいらの両腕をおいらの背中へまわし、おいらは羽交い絞めにされてしまった後で我に返った。
やばい、と思った。
「ちょっといい? ちょっと、ちょっといい?」
いいわけないやろ!
男はそのまま、おいらの腕を羽交い絞めにしたまま、半分開いたままのワゴン車の中へ引きずるようにして引っ張っていく。
当時夏の終わり、ワゴン車で女性が連れ去られて強姦されそのまま殺される事件が多発していた。
ニュースでもそんな話題ばかりで、おいらの頭にもすぐにそれがよぎった。
と同時に、下手に強く抵抗するとすぐに刃物を出されてしまうからそれもだめだ、と報道していたのを思い出した。
空手と剣道の心得のあるおいらだけど、それが気になって強硬手段には出ず、とりあえず大声を出してみた。
捕まえられた場所は、小さな短いトンネルを出てすぐ、目の前はハローワーク、すぐ先に小学校、向かいは田んぼと大きな公園。
市内に田んぼなんて小さいの3こくらいしか見た覚えがないのに、こんなところに小学生の育成用田んぼがあるんだなぁorz
……昼は賑わうが夜は一切人が通らない場所だ。
叫んだとて誰も気づかないだろうことは、その小学校出身で超地元民のおいらにはすぐわかったんだけども。
おいらの大声にその男の羽交い絞めにしている腕の力が一瞬弱まったの。
今だ、と急いで腕を振り解き、自転車を強く漕ぎ出した。
小学校の角を曲がり、真っ直ぐ全速力で進む。
後ろから再びワゴン車が追ってくる。
あっというまに、もう追いつかれる、というところで大きな道路の信号に差し掛かった。
それを渡ってしまえば、50mほどで実家のマンションがある。
でも、大きな道路の信号は赤。
結構大きな道路で、夜中でも頻繁に車が行き交う。
赤信号を見て、終わった、と思った。
でも自転車を漕ぐ力を緩めなかった。
ここであいつに捕まるよりは、道路に飛び込んで死ぬ方がマシだ、って思ったの。
思い切って道路に飛び出した。
後ろでワゴン車が赤信号で止まるのが見えた。
衝撃を予測しながら、震えながら飛び出したんだけどそこには車が通っていなくて。
よく見ると大きな道路の、おいらがいる横断歩道の信号は赤だが、すぐ5mほど向こうにある横断歩道の信号は青のまま。
おいら思い出した。
この大きな十字路の横断歩道の信号は片方だけ遅れていて、手前が赤でも奥が青であることがある。
そしてその時、車側の信号は赤なのだ。
地元民じゃなかったら気づかなかったかもしれない。
(やっぱ、こんなとこで死んでたまるか!)
渾身の力で全速力で渡りきって、途中で青信号に気づいたらしいワゴン車すら振り切ってマンション敷地内へ入った。
大きな公園の中にあるマンションなので一旦入ってしまえば車は入れない。
家はバレてしまうけど……。
自転車をとめて急いで携帯電話を取り出して母親を起こし、ドアを開けてもらって中へ。
なかなか震えがとまらなかった。
次の日の新聞で、同じ市内のすぐそばの近所で、ワゴン車で女性が連れ去られ、死体で戻ってきたというニュースが載っていた。
同じ犯人かどうかはわからないけど鳥肌が立ったまま、しばらく母親と凍ったのをよく覚えてる。
もし同じだとしたらそこに載っていたのはおいらだったかもしれないし、おいらが助かったせいで殺された女性がいるのかもしれないと思うと本当に怖かった。
その日、バイトの休憩時間に警察に連絡して巡回をお願いした。
怖いのでタクシーで往復。
弟が家の外を見回ってくれて、毎日必ず怪しいワゴン車が停まっていることがわかった。
警察の巡回は全然お願いした時間ではなく、それもたった一度だけサーっと早い速度で音も鳴らさず通り過ぎるだけだったらしい。
下手すりゃ気づかないほど。
タクシーで往復していれば大丈夫だろう、とそれから一週間、毎日タクシー通勤。
事件の日から一週間した頃、いつものようにタクシーで帰宅し、車から降りてマンション敷地内へ入ろうとした瞬間、背後から視線を感じた。
寒気というか、背筋が凍るというか、嫌な感じが走ったの。
振り返るとそこにはあのワゴン車が停まっていて……おいらが振り返った瞬間、ワゴン車の小窓がスー…っと開いた。
ギャァー!!
全身の毛が逆立つくらい恐ろしく驚いてマンションの中へ思いっきりダッシュして走った。
もう本当に怖くて怖くて……。
それからしばらくはタクシーを降りる時はマンション裏側の違う入り口へ遠回りしてもらうようにして、タクシーから降りる時は母親か弟に降りてきてもらって、近くにきてもらってから降りるようになった。
なぜならそのすぐ後に、タクシーを降りる瞬間を狙って連れ去られて襲われ殺された女性の事件がいくつかニュースになったから。
見張っていた弟いわく、一ヶ月以上そのワゴン車は毎日停まっていたそうだけど(弟も危ないから友達と一緒に散歩がてら見ていたらしい)、おいらが現れない日が続いたせいか、ぱったりとワゴン車の姿を見なくなった。
毎日じっと見張られているのかと思うと本当に怖かった。
それ以来3年経った今も、夜にそこを通ることができない。
なんて恐ろしい世の中なんだ!!
自分の中の欲求を満たしたいがためだけに、どれだけの人が脅えて、傷ついているかもっとよく考えて欲しいと思う。
そら姉さまの記事 を見て、おいらも書こうって思ったんだけど、ほんとにほんとに恐ろしい。
あの犯人、パっと見、不良っぽいとかヤクザっぽいような人じゃなかった。
いかにも普通の、髪も黒くて本当に普通っぽい男の人。
だからこそ余計気持ち悪くて、ぞっとした。